ウェブマガジン カムイミンタラ

1985年01月号/第6号  [ずいそう]    

コノハズク撮影
佐藤 威一郎 (さとう いいちろう ・ NHK自然番組ディレクター)

北海道に住むようになって2年。最近は、千歳空港に降り立つと、「さあ、帰って来たぞ、大好きな北海道!」と思わず心の中で声をだしてしまうまでになっている。身を引きしめる冷気。その彼方に広がる豊かな森や草原…。そして、そこで知り合った大勢のナチュラリストたち…。例えば写真家のS君。

つい最近、S君の案内で夜の森にコノハズクを撮りに行った。あいにく月もない暗い夜だった。これでは、とても深い森の中から小さなコノハズクを見つけだせそうもない。

「今日はやめようか…」

森についた早々から気になっている私に、「大丈夫、鳴き声が聞こえさえすれば絶対に撮れますから…」

と、S君は自信満々である。その意気ごみに圧倒されて、しぶしぶと待つことにする。なかなか時間が流れない。

4時間あまりたったろうか、

“ブッポウソウ ブッポウソウ”ようやくコノハズク特有の声が遥か遠くから聞こえて来た。しかし、広い森の、一体どのあたりにいるのか皆目見当がつかない。S君は立ち上ると、「ちょっと待ってください。その枝にとまらせますから……」

と、すぐ前のカラマツを指さす。そして、指を口にあて“ブッポーブッポー。と鳴きまねをはじめた。3分近くも、繰り返していただろうか、遠くの声が鳴き止んだ。「ほら、来ますよ!」S君の声で、半信半疑で枝にライトをあててみる。すると、その明りの中に、まぶしそうに目を細めたコノハズクが、ちょこんととまっているではないか。なぜ、こんなところに来たんだろう…。訳もわからないまま我々は、夢中でカメラをまわし続けた。

撮影は無事終わった。夜の森でコノハズクをテレビに撮ったのは、我々が初めてではないだろうか。我々には、遇然でしか撮ることの出来ない夜のコノハズクを、ごく当然のように撮らしてくれたS君。彼の説明によれば、コノハズクは縄張り意識が強いうえ、好奇心も旺盛で、同じような声を聞くと必ず近づいて来るのだという。しかもコノハズクの大きさから、止まりやすい太さの枝をあらかじめ見つけておき、そこで待っていたのだという。

生態を知りつくし、自信を持って4時間もねばり続けていたS君には頭の下がる思いである。

野生生物の撮影は、遇然の出会いではなく、確実に撮れる場所で待ちかまえるように変わって来ている。そのようにかえたのは我々TVスタッフではなく、S君たちだ。私は北海道に来て2年の間に、S君と同じような大勢のすばらしいフィールド屋と知り会った。彼らの燃えるような自然への情熱。そして、その情熱を受けとめる豊かな北の自然。北海道に住んで、ほんとうによかったと、心から思うこのごろである。

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