ウェブマガジン カムイミンタラ

1994年05月号/第62号  [ずいそう]    

料理家のジレンマ
宇土 巻子 (うどまきこ ・ アリスファーム)

去年から料理の本を作っている。「北の田園の食卓から」と名付けられたこの料理本は6冊のシリーズになっていて、現在、「ハーブ」「果物」「卵とミルク」「野菜」の4冊が刊行されているが、今年、残りの2冊の本を完成させれば、一応シリーズは完結することになる。

今年の予定は「ベリー」と「米と小麦」。「読者は今は、米に一番関心があるんだから、タイトルに米という字が入れば、それだけで売れます。絶対に売れます」

と、この道何十年のベテラン編集者は電話口で力説する。

「でも、わたしは米についてはちょっと…」と口ごもる著者に、

「得意なエスニック料理や地中海料理の方向でいったら絶対に売れる本になりますよ。撮影はいつ頃?」

と、売れるという魅力的な言葉をちらつかせながら、追い打ちをかける。

著者であるわたしは困ってしまう。

そういえば、輸入米の食べ方というような記事が新聞や雑誌を賑わせている。

わたしは、そういう表層的な記事が氾濫して、米問題の本質が見失われてしまうことが恐ろしいのである。

何故、米が不足しているのか? その原因は果たして天候の不順だけなのだろうか。

日本が米を輸入することは、日本の米作りや私たちの食生活、また世界の米作りや、特に米を輸入している発展途上国の食生活に影響はないのだろうか?

今必要なのは、輸入米のおいしい食べ方ではなくて、米問題の原因とわたしたちがとるべき態度について真剣に考えて発言していくことだと思う。

だから、米料理の本を作ることはあまり気が進まない。売れるという言葉に惑わされずにもう一度、編集者を説得してみることにしよう。

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