広州(コワンチョウ)は、中国広東省の行政・経済・文化・交通の中心であり、人口約500万の大都市である。古くから南海貿易の門戸として栄えてきた地であるが、近年は重化学工業や軽工業の発展が目覚ましく、また伝統工芸品も盛んに作られている。
この地で毎年春秋2回開かれる輸出商品交易会はいまや国際的に有名であり、世界各国からも訪れる人が増えているという。
ところで、私は去る11月に広東省人民政府を訪問する機会を得た。「たくぎんは井戸を最初に掘ってくれた友人であり、私たちは決して忘れません」という温かい言葉を頂戴し、まさに「熱烈歓迎」を受けたのである。
その日は珠江(チューチャン)のほとりにあるホテルに泊まった。眼下に滔々と流れる大河と、数々の歴史を秘めて静かに佇む建物群との対比は、あたかも名画の趣であった。
翌朝の目覚めは早く、前の晩に食した蛇と蛙の効果であろうか、二日酔いにもならず、気持ちのよい清々しい朝を迎えた。散歩がてら近くの公園に足を運んでみると、鮮やかな桃色に染まった羊蹄花((ようていか)タデ科ギシギシ属の多年草の花)が咲き乱れるなか、老若男女がそこかしこで太極挙をおこなっている。そのゆったりとした動作が、遥か珠江を行き交う船(ジャンク)の速度と、えも言われぬハーモニーを醸し、朝の気分に心地よい。
少し離れた木陰では、石造りのテーブルを囲み麻雀に興じている老人たちもいる。黙々と大きな牌(パイ)をつかむ老婆の手は武骨で、額の雛も深い。傍らに佇んで見ていた私とふと目が合うや、人懐っこい瞳が笑っている。どうやら高い役を聴牌(てんぱい)したようだ。
公園を出ると、自転車に乗った人びとの数が増え、喧喋の1日が始まろうとしていた。
遅い時間と速い時間が、老いと若さが、したたかさと優しさが共存する街、広州。
広州の朝に、人の住む街の豊かさを見た思いがする。