ウェブマガジン カムイミンタラ

1995年03月号/第67号  [ずいそう]    

南の神と北の神
安田 達行 (やすだ たつゆき ・ 環境庁 西北海道地区国立公園 野生生物事務所長)

美瑛町にある美瑛神社は、紀伊の熊野大社の分社ときく。熊野大社には、本宮(ほんぐう)大杜・速玉(はやたま)大社・那智大社の3社があり、熊野三山とも三熊野(みくまの)とも呼ばれている。美瑛神社は、このうちの本宮大社からの勧請(かんじょう)とのことで、その時期も明治30年と町の開基に3年ほど先立つ古さである。

紀伊の熊野地方は、「隠国(こもりく)」の別称が示すように、元来は深々とした照葉樹林に覆われる地であった。他界観念と結びついて古くから神聖視され、平安時代には神仏習合の風も起きて、ここを訪れる参拝者の列は「蟻(あり)の熊野まいり」ということばを生みだすほど多いものであったという。

日本全国の神社の数は、ひとくちに8万とも10万ともいわれるが、神社台帳に載らないような小さな社も加えれば、その数はもっと膨大なものになることは間違いない。「日本宗教事典」(弘文社)なる本によれば、分社数でいちばん多いのは稲荷社で3万2千ほどあり、八幡社、伊勢社、天満(天神)などがこれに次ぐ。

熊野社は3千を少し超えるくらいで、8番目に多い神社とされているが、美瑛神社は、そのなかでおそらく最も北にある熊野社であろう。熊野地方からの入植者が勧請したとの由来があるが、平成元年から今度は那智大社の「那智の火祭り」につかう大松明(たいまつ)を招聘(しょうへい)して十勝岳の噴火を鎮める「那智美瑛火祭り」がおこなわれているという。

「隠国」の神社がはるばる北の地に招かれて、その威に期待が寄せられているときくと、私などはさて祭神に戸惑いがないのだろうかと心配してしまったりする。

北の国には北の国なりにむかしからの神々がいらっしゃるわけで、うまく折り合っているのだろうかとの、いらぬ心配もおきたりする。大雪山はカムイミンタラの地、南の神も北の神と仲よくやってくれていることを願わずにはいられない。

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