ウェブマガジン カムイミンタラ

1985年03月号/第7号  [ずいそう]    

わたしと大雪山
志賀 芳彦 (しが よしひこ ・ 写真家)

初めて大雪山と出合って今年でちょうど30年になる。その当時わたしが暮していたオホーツクの街から仕事のことで旭川に向う途中でのこと、上川の街を見下すような小さな峠があって、登りつめた峠の広場で車を止め、ひと休みすることにした。

この峠は今では旧道になっているが上川の街の北側にあたり「越路峠」と呼ばれている所である。

この峠では上川の街と、その奥に屏風のように立つ大雪山が一望できた。大雪山の山なみは新雪に輝き、秋の紅葉は裾野へと広がってきていた。このダイナミックな風景は浜育ちで海しか知らないわたしにとって、それは実に新鮮なものであり、強烈な感動に魅せられてしまった。

旭川での仕事をすませ、帰途は上川に宿をとり、画洋紙とクレパスを買い、山の見える所や層雲峡の渓谷など1週間ほどのスケッチをして歩いた。それはほんの一部を見ることにすぎなかった。またカメラを持っての出直しとなり、大雪山への山行きが始まった。そのうち家を世話してくれる人もあって間もなく山裾の上川の街に居を移すことになった。

それからは四季を通して大雪山の山々を撮り歩いたが、10年ほど過ぎた頃、今まで撮った自分の作品に違和感が募り始めた。表面的な山の姿は写っても、自然の深奥にひそむ自然のほんとうの姿が写らなかった。何度も反省し、山に対する自分の心を改め、「自然との対話」の中で撮らなければと思った時、今まで見えなかった自然の世界が無限に広がっていった。

そして18年たって「大雪」という写真集を出版することができた。わたしはあの日、越路峠で初めて大雪山と出会い、いたる所で自然の織りなすさまざまなドラマにも出会った。そして山行きや作品を通して多くの人々とも出会い、その出会いのすべてがわたしにとって貴重なものであり、大雪山との出会いはわたしの人生をも大きく変えたのである。

◎このずいそうを読んで心に感じたら、右のボタンをおしてください    ←前に戻る  ←トップへ戻る  上へ▲
リンクメッセージヘルプ

(C) 2005-2010 Rinyu Kanko All rights reserved.   http://kamuimintara.net