本誌65号の本欄で、「牛乳を飲んでください」という稿を目にした。北海道に学生生活を含め20年以上お世話になり、牛乳栄養学術研究会委員として研究費まで頂戴している身としては、この続きを書く使命のようなものを感じた。しかし、それには次の文に勝るものはない。やや長い引用になるが、お許し願いたい。
「…牛乳とミネラルウォーターは同じ値段なのである。これは社会的な問題としてみて、実にけしからんことなのである。…だって、そうでしょう。牛乳のほうはミネラルウォーターと比べて、比較にならないほど大変なのだ。牛乳は、まず牛というものが存在しなければならない。そして、その牛にエサを食べさせなければならない。…病気にならないように注射もしなければならない。朝早く起きて乳をしぼり、それを車で集乳所まで持っていかなければならない。―ならないことばかりなのだ。…ミネラルウォーターのほうは、なーんにもしていない。湧いているのを、ただ汲んできただけ。…汲んで箱に詰めただけ。これが同じ値段で売られるとは、どういうわけだッ。おじさんは怒ってるんだゾ」(東海林さだお『東京ブチブチ日記』文芸春秋社)。
私の立場としては、値段の問題はさておき、栄養学的に少し牛乳を紹介したい。
ミネラルウォーターとの比較は論外であるが、牛乳にも欠点はある。しかし、それは鉄分が少ないくらいのものだ。タンパク質も豊富だが、牛乳の最大の特長はカルシウムである。カルシウムは、骨の材料ばかりでなく、すべての生命現象に関与しているといっても過言でないほど重要なミネラルだ。北海道は、幸いにも厚生省の目標摂取量(1日600mg)をぎりぎりだが達成している唯一の都道府県である。なんとか、これを真の目標摂取量(1日800mg。厚生省の目標値は低過ぎる)まで伸ばしていただきたい。すなわち、もうコップ1杯の牛乳(200mg)を。これで、道民が健康になり、酪農が“楽農”になれば結構なことである。