ウェブマガジン カムイミンタラ

1996年05月号/第74号  [ずいそう]    

料理と女将とタバコ
大野 紀子 (おおの のりこ ・ 株式会社オオノ代表取締役)

「美味しいものは、美味しいうちに召し上がれ」。時々、心の中でこんな言葉をつぶやくことがあります。

すすきのに季節料理の店「おゝ乃」を出して、はや16年目。本物の素材にこだわり、お客さまに喜ばれるお料理を提供したいと、板前ともどもがんばってきたつもりです。

最近は、以前にもまして女性のお客さまの利用が多くなりましたね。「ちょっと寄って美味しいものでも食べていこうかしら」という感じで、気軽に顔を出していかれるんですよ。1日の仕事を終え、よく冷えたビール片手にお料理やおしゃべりを楽しむ。みなさん、とても楽しそうです。

人さまがどんなふうに食事をされようと、とやかく言うほど野暮ではありません。ここからは、女将の老婆心とでも思ってください。

外国の映画なんかで、よく女優さんが、かっこうよくタバコを吸うシーンがありますよね。バックにはステキな音楽も流れていて、雰囲気も抜群。真っ赤なルージュの端にくわえたタバコが、よりその女優さんを美しくみせています。

ただし、誰もがこんなふうにかっこうよくふる舞えるとは思えないんですね。とくに、お料理を前にしてスパスパでは……。

あたたかいものは、あたたかいうちに。冷たいものは、冷たいうちに。これが美味しく食べるコツ。あぶらののったキンキの焼き物に箸もつけず、口に運ぶのはタバコだけでは「あーあ、焼きたてがいちばん美味しいのに」なんて、ついつい気になってしまいます。

ここで、女性の喫煙云々を語るつもりはありません。料理屋の女将として、せっかく美味しいものをご用意したのだから、タバコなどに浮気をせず、お皿の上のお料理だけを真剣に愛してほしいと思うんです。

もちろん、男性の愛煙家の方々にも「まずはお料理に目をかけてやって」と、つけ加えておきましょう。

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