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1996年11月号/第77号  [特集]    

民主主義の未熟さから発生した地方自治体の公金不正問題を正し市民主権の自治をめざす
札幌市民オンブズマン

  
 昨年、地方自治体の食糧費について一斉調査がおこなわれ、日本の地方自治体の公務のあり方、公金の使い方の乱脈ぶりが白日に曝されました。なかでも北海道は、もっとも多額の不正がおこなわれていました。そこには公務員の倫理観の欠如だけでなく、民主主義の未成熟さが浮き彫りにされています。その民主主義の基盤である情報の公開と住民監査請求を求めて、今年6月、「札幌市民オンブズマン」が発足しました。こうした市民活動が“追及”対“対決”姿勢の構図で展開されるのではなく、地方自治のあるべき姿を求める活動であることに道庁関係者は気づき、少しでも早く道政の改善に取り組んでくれることが望まれています。

食糧費の一斉調査で明るみに出た公金不正支出

1995年4月、事務局を名古屋市内に置いて行政の監視活動をつづけていた「全国市民オンブズマン連絡会議」が、全国都道府県と政令指定都市を対象に、ある一斉調査をおこないました。その調査とは、これら地方公共団体(自治体)の公務員が中央官庁の公務員を接待する、いわゆる“官官接待”のために使っている「食糧費」についての情報公開請求でした。

その調査結果が、同年7月29日に公表されました。すると、北海道庁の東京事務所、秘書課、財政課の三部署から報告された93年度の食糧費、懇談費の総額は1億8800万円を超えて全国最高位を示したのです。この全国調査から次々と明るみに出されたのは、コンパニオン代(新潟)が含まれていたり、一人あたり7万円の料理がふるまわれていたり(大阪府)と、驚くほど無節操な公金の使われ方や不明朗な会計処理の存在でした。

それから3週間後の8月21日に開かれた記者会見で、堀達也北海道知事は、北海道が全国でもっとも多くの食糧費を使っていることに対して「節度の問題はおおいにあるが、北海道の食糧費の使い方は他府県よりもキチンとした形で内規を作り、それに基づいて運用しているので大きな問題はない」と述べ、さらに“官官接待”の是非についての質問に対して、堀知事は「情報をいただいたり、道の意向を理解していただくためには、そういったもの(官官接待)があるべきです」とし、“あるべき”という表現で“官官接待”の必要性を強調したことが広く報道されました。

しかし、これは北海道庁の公金乱用のほんの発端にすぎませんでした。昨年10月以降、次々に発覚してきたのは、職員のカラ出張、カラ会議、職員同士の公費飲食、さらに不正会計処理、それらの隠ぺい工作までもおこなわれている実態でした。こうした不正は道庁の本庁・支庁だけにとどまらず、道政の監視役であるはずの北海道監査、委員事務局、北海道教育委員会、保健所にも及んでいます。

これら組織的慣行によって生みだされた裏金の総額は、92年4月から95年10月まで3年半の期間だけで、なんと19億1千万円にも達していることが現在までに判明しているのです。

市民オンブズマンは草の根NG0

こうして、道庁の公費不正支出の実態を追及する端緒をひらいたのは、札幌市内で弁護士事務所を開業している市川守弘さん(42)です。

「たまたま、ぼくが93年から北海道の知事交際費関係文書の非開示決定の取り消しを求めて裁判を起こし、現在も係争中なものですから、全国市民オンブズマン連絡会議に誘われて入会し、北海道代表という名称で呼ばれながら、やってきたのです」とのことです。

イメージ(札幌市民オンブズマンが発足後に開いたホットラインには、市民のさまざまな声が寄せられた)
札幌市民オンブズマンが発足後に開いたホットラインには、市民のさまざまな声が寄せられた

「全国市民オンブズマン連絡会議は、94年7月、全国各地で自治体などに対して情報公開訴訟や住民訴訟を起こしている弁護士などを中心に旗揚げした“草の根NGO(民間団体)”です。大阪府ではかなり以前から知事交際費の問題に取り組んでいましたし、宮城県でも早くから県庁の食糧費の情報公開請求をしていました。そんな活動を踏まえながら、昨年4月、全国一斉に食糧費の情報公開請求をおこない、全国自治体の“官官接待”などを白日の下に引きだすことになったのです。これは、大きなうねりになりましたね。現在、40近い団体がこのグループと連携をとり合いながら、全国都道府県で活発に行動しています。北海道でも今年6月に『札幌市民オンブズマン』が設立されたので、私もそこに所属し、現在はその一員として活動をつづけています」と話します。

今年6月に発足した札幌市民オンブズマン

イメージ(市川守弘さん)
市川守弘さん

北海道での自治体に対する情報公開請求などの動きは、市川さんの活動をはじめ、札幌弁護士会でも情報問題に関する委員会を設けて市民とともに情報公開制度を検証し、改善点を提言するための「情報公開を考える市民セミナー」を開いたりしていました。そうした活動をさらに進めるため、今年5月30日に札幌の弁護士が中心となって『札幌市民オンブズマン』(事務局=郵便060-0042 札幌市中央区大通西11丁目 52山京ビル、太田賢二法律事務所内 電話011-261-5715)の設立準備会が開かれ、6月14日には設立総会を開催して発足しました。メンバーは弁護士のほかに大学教授、司法書士、不動産鑑定士、会社員など16人。北海道では法律などの専門的な問題に対応できる初めての専門家集団が誕生したのです。代表幹事は4人制で、矢野修、中村隆(ともに弁護士)、岩井英典(司法書士)、庄尚子(会社員)のみなさん。そして、事務局長には、今年2月ごろから道庁の食糧費などの裏金返還方法が違法だとして差し止め請求などをしている弁護士の太田賢二さん(37)が担当しています。

札幌市民オンブズマンの設立趣旨について、太田さんは語ります。

「ふつうの市民が行政のあり方についてどのように考えているかという点を、最も大切にしたい。ですから、政治的な活動をおこなうのではなく、市民の視点で疑問点を調べ、必要なら改革を求めるなどの提言ができるようにしたいと思っています。私たちは、法律などの資格を持っている者が多く集まっていますが、ふつうに税金を納めている市民の立場で“開かれた行政”を確保するためにどういうことができるかを、まず最初に考えています。ですから告訴、告発などによって組織や個人を糾弾しようとしているグループではないのです。」と。

当面の活動は、北海道では唯一加盟している全国市民オンブズマン連絡会議と連携して、監査委員事務局などの旅費や食糧費の情報公開請求とその調査分析。電話やファックスによるホットラインを通じて、市民からの要望や情報を収集する。それに、資料のコピー代など情報公開費用の引き下げ要求をおこなうことも決めたのです。

「意外に、お金がかかるのです。昨年、市川さんは情報公開請求のために100万円前後を個人負担していると思いますよ。私も監査委員会の2年度分の食糧費の資料を取っていますが、そのコピー代が1枚36円もするので、1年度分だけで15万円にもなってしまいます。その費用をどうするか。組織の形をとって何らかのフォローをしてもらう方法もあるでしょうが、それではヒモ付きになってしまいます。あくまでも市民の立場をつらぬこうとすると、どんな方法をとったらいいのか。そこが、今の段階での悩みのタネです」と、太田さん。

現在のメンバーは16人。では、会員を増やして、資金的な基盤づくりを考えているのでしょうか。

「設立を準備するときに、会員を公募するかどうかの議論もあったのですが、そうなれば政治的な意図を持った人やさまざまな思惑を持った人が入会して来ないともかぎりません。すると、組織は大きくなりますが、逆に利用されたりする。中立な市民の立場でというスタンスが崩れてしまうのを、私たちは恐れています」とのことです。

現在“オンブズマン”を名のる団体は道内にもいくつかありますが、設立の趣旨も活動内容もさまざまで、たがいに連携しあうことなく、名称のほうが独り歩きしている傾向もあります。そんななかで、札幌市民オンブズマンよりも先に名のりをあげていた市民団体「道民オンブズマン」の中心人物が金融機関を相手に恐喝事件を起こしたとして逮捕される事態が発生。市民オンブズマンに限らず、真撃に市民活動をすすめている人たちにショックを与えました。

「つねに襟を正して活動している市民運動全体にとって、たいへんなマイナス」と市川さん。太田さんも「私たちとはまったく別の組織ですが、なかには混同して見る人もあって、迷惑しているだけでなく、前に進むのを躊躇する部分も出てきたりします。このことで、道民の期待が中途半端にしぼんでしまうことが、いちばん怖いのです。私たちは、自分たちがしようとしていることを市民のみなさんに認められるよう、しっかりとスタンスを固めていかなければならないと思っています」と気を引き締めています。

中立な立場を保つためにメンバーの公募はひかえる

現在の札幌市民オンブズマンは、これまでに道庁の公金不正支出に対して市民運動をつづけてきた人たちの、しかも共通の認識を持った人たちの範囲で構成しています。したがって、今後、多くの市民とどのように連携し、広がりを持つものにしていくかが課題となります。

イメージ(今年7月に高知市で開催された「第3回全市民オンブズマン大会」で札幌にも市民オンブズマンが発足したことを報告する太田賢二事務局長(左))
今年7月に高知市で開催された「第3回全市民オンブズマン大会」で札幌にも市民オンブズマンが発足したことを報告する太田賢二事務局長(左)

「仙台市民オンブズマンは20人程度の構成員ですが、その周辺にはタイアップグループが組織されています。新潟の市民オンブズマンもその周りに“応援団”というグループがうまれて、資金面なども含めたいろいろな形で援助しているようです。しかし、これらも公募によって組織したものではないのです。中立性を維持して、疑問や不当な行為を正していく活動に協賛してくれる人を、人と人のつながりの中で集いあい、実質的なカンパをお願いするという形ですすんできているようです。私たち札幌市民オンブズマンは、発足以来、毎月2回程度集まって会議を重ね、自分たちに何ができるか、何をしなければならないかが少しずつ明確になったときに、市民のみなさんとのアプローチをどのようにすすめていくか、どんな組織を周辺に持つのがよいか―と、現在はそのことを模索している段階です」と、太田さんは市民の良識を反映させるためのメンバーづくりに慎重な姿勢を示しています。

太田さんたちの身近にも「知事に公開質問状を出してはどうか」とか「監査委員事務局に面談を申し入れてはどうか」といった意見を寄せる人もあるといいます。しかし、太田さんは「それが、1回性のパフォーマンスに終わってしまうのでは困る。地道に、みんなの共通の意識の中から出てくるもので活動のしかたを形づくっていこう。とくに、これまではマスコミ主導で次々と情報が出てきているので、自分たちの視点で、いま、何が求められているのか。次に何が必要か、どういう方法で行動すればよいかをさらに議論し、問題点を明確にして市民のみなさんに示すことができればいいなと思っています」とも語ります。

民主主義のルールづくりのために情報公開を求める

このグループで注目されるのは、戦後の民主主義教育を受けて育った若い世代が構成員であることです。では、その人たちは活動のポイントをどこに置いているのでしょうか。

「情報公開、監査請求を大きな手段として、市民にひらかれた地方自治を確立するための提言をしていきたい」と、太田さんは明快です。

「それをどこから着手するかといえば、当面は食糧費などにおける税金の使い道から、ということにはなるでしょうね。しかし、それだけにとどまっては問題がしだいに矮小化(わいしょうか)されて、個人攻撃になりかねません。私たちがめざすのは、そういうことではありません。公務員は本来優秀な人たちが多いはずであり、一生懸命仕事をしている人は大勢いるのです。そんな公務員が、自分の仕事に誇りをもって働き、私たちも納得して税金を納め、その使い道をきっちり見届ける。民主主義のルールは、本来、地方自治に最も求められているものですから、そのことをみんなで明確にしようということなのです」。

「行政組織は大切な組織ですから、それを破壊したり解体しては意味がない。なくすべきなのは官僚意識であり、上意下達だけで生きている官僚社会を変えていかなければならない。上司にへつらい、部下をかばう。そんな内輪意識は盤石な官僚組織の維持には必要でしょうが、それが不正を生む大きな原因であり、不正や理不尽をみずから糾弾したり、根絶させるという自浄作用を失わせることにもつながるのです」と市川さんは言います。そのうえで、民主主義のルールづくりは“情報公開の実現”がすべての基盤になるとも強調します。

「北海道庁も、当然ながら情報公開条例を制定しています。しかし、この条例の及ばないところがけっこう多いのです。道議会がそうですし、第3セクターをはじめとする外郭団体の情報はまったくわからない。国の情報が絡むと、道からはほとんど公開されません。いとも安易に“不存在”とか“非開示”として書類が戻ってきます。この点は北海道だけでなく、日本全体が情報公開についての認識がかなり遅れているのです。アメリカでは、日本人の私たちがアメリカの国の情報を入手したいと思えば、簡単な請求書1枚を書いて郵送すると、ほどなく送ってくれます。ところが日本では、たとえば青森県在住の人が北海道の情報を知りたいと思っても人手できない。これほど遅れた国は先進国の中にはありません。恥ずかしいかぎりですよ」と言い、現在の情報公開の問題点をどのように改善するかを詰め、最終的には情報公開条例の改正、さらには全国的にタイアップして『情報公開法』の制定にまで踏み込んでいきたいと語ります。

しかし、情報公開に対する行政の抵抗はひじょうに激しいと言います。仙台市民オンブズマンによって食糧費の公開を迫られた宮城県は、最初のうちは公開しないと言い張り、判決によって公開せざるを得なくなりました。なぜ公開を拒みつづけたかといえば、使途不明が40数パーセントも出てきたのです。つまり、後ろめたいことがあるから拒否しつづけた、というのが実態のようでした。しかし、公務員が業務内容の開示をしたがらない理由のひとつには、何か不都合を指摘されるのではないかという被害者意識がはたらくからだという人もあります。日本人は仕事は“大過なく”全うすることが美学であり、とくにその姿勢は役人に求められているというのです。

もうひとつの照準は、税金のむだ使いの問題です。この点についても、市川さんは税金に対する日本の風土に根本的な問題点のあることを指摘します。

イメージ(札幌市民オンブズマンが発足後に開いたホットラインには、市民のさまざまな声が寄せられた)
札幌市民オンブズマンが発足後に開いたホットラインには、市民のさまざまな声が寄せられた

「日本人には今もって“お上意識”が根元にあり、歴史的にも、税金は取られるものという意識が根強く残っているのです。だから、市民生活からかけ離れた使われ方をしていても、さほど問題にしないできました。ヨーロッパでは絶対君主制を打ち破って市民政治を切り開いたとき、自分たちの社会をつくるために必要な金を少ない中から率先して拠出しようと、人権宣言の中に規定したのです。ですから、日本の納税者のように目こぼしはしませんB私たちも、もうこの辺で税金のむだ使いや不当な使途には監査請求なり住民訴訟なりの手段を講じても正していかなければなりません」。それを札幌市民オンブズマンがひとりで背負うのではなくて「シンポジウムなどを重ねることによって市民の身近なところからすすめていく方法はないかを探っていきたい」(太田さんの話)とも言います。

“行政は腐敗するもの”だがチェック機能を失った議会

北海道庁、北海道教育委員会などによる一連の公金不正事件で、とくに道民を驚かせ、憤りを高めているのが、カラ出張、カラ接待、カラ雇用などさまざまなカラ問題です。なぜ、こんな乱脈が起こり、長年継続されてきたのか。その原因はきびしく追求されなければなりませんが「これには特殊な要因がある」と市川さんは語ります。

「1970年代、多くの地方自治体で革新首長の躍進が目覚ましく、日本は“地方の時代”の到来といわれた一時期がありました。しかし、やがてそれは鳴りをひそめるのですが、近年“地方分権”の必要性を求める声が強くなり、ふたたび市民のあいだに地方というものが意識されるようになってきました。そして、自分たちの社会のあり方に対して、積極的な目を向けるようになってきた」というのです。

一方、中央官僚をはじめ、地方公務員にいたるまでのほとんどは“公金”に対する認識を麻揮させたまま市民(国民)のわずかな成熟にも気づかず、不当行為をほとんど罪の意識なく継続していたのです。市川さんは、さらに言います。

「元来、行政は腐敗するものです。とくに、アメリカではそういう考尺が前提にあり、それならば腐敗させないためにどうするかということで、市民が裁判を起こすことができる『市民訴訟条項』があたりまえのように認められています。あるいは、公聴会や審議会に市民が主体的に参加して“行政は信じられないから自分たちが意見を述べるので、それにきちんと答えるように”ということが、制度として確立されているのです。それは地震予知に力を入れるよりも、日本では地震は起きるのだという前提に立ち、その被害を最小限に防ぐにはどうすればよいかを考えるほうが合理的だと思うのです。私は、まだまだアメリカに学ばなければいけないことがあると思っていますよ」とも言います。

もうひとつ、地方自治がこれほど乱れた理由に、議会がチェック機能を果たさなくなったと指摘されています。最近の首長は多数党の相乗り選挙によって推薦され、議会と理事者のあいだに緊張感が失われている場合が多いというのです。北海道の場合、前知事時代から道議会の総与党化がすすんだといわれ、行政追及の矛先が弱まったために、隠密にしかおこなわれていなかったことが驚くほど大きく広がったのだと思われます。

飲み食いによって公務が左右される、そんな病根が地方政治にも及び、一気に噴き出したというのが今の状況なのでしょう。

太田さんは「この運動を通じて、従来の行政に対する圧力団体的な活動とは違った、身近な地方自治を実現しようという市民の気持ちが見える」と言い、市川さんも「今の閉塞感を突き破ろうとするエネルギーが湧き出ているという雰囲気が感じられる」と言います。「公務の内容を知らせて」と言うのは市民の権利。要求されたら知らせるのは公務員の義務。札幌市民オンブズマンは、そんな当然のことを市民とともに求めていくと力強く語っています。

いま、市民のあいだに国と地方自治体に対して、情報公開法の制定を求める声はかなりの高まりをみせています。また、問題が起きてからチェックをしたり追及するばかりではなく、計画についての情報も公開され、市民とともに考えながら物事がすすめられるシステムが実現されていかなければなりません。

もっともっと市民を信頼し、市民にこそ主権があるのだという考えこそが民主主義の基盤であり、地方自治も国政もそのうえに成り立つものです。行政にその認識がもっと育ち定着していくことを実感したい、ますます多様になる市民の声の共通した思いといえるようです。

オンブスマン(ombudsman)とは

広く行政作用によって国民の権利や利益が損なわれないよう、国民に代わって苦情の解決および行政の適正運営の確保が図られるために行動する人。現在のような制度は17世紀のスウェーデンが発祥。現在は北欧やイギリス、ニュージーランドなど世界30カ国で導入している。オンブズマンは「護民官」を意味し、従来の行政救済制度では十分に確保しえない措置を行うことで、構成・適正に行政を実現し、国民の行政に対する信頼を確保することを任務とする。

一般的機能としては
(1)苦情を起点とする行政事務の事後的統制
(2)行政の監視・改善
(3)行政救済・苦情処理
(4)人間的な温かみのある対応
――などが挙げられる。

日本でも1970年代から注目されはじめ、ロッキード事件を機に関心が高まり、行政管理庁(現総務庁)内に設置されたオンブズマン制度研究会が1986年に、議会ではなく、s政部に所属する行政型オンブズマンの導入を提言した。地方レベルでは、川崎市が1990年に「市民オンブスマン」の設置を条例で決め、ひと足先にオンブズマン制度を実現した。民間では1994年7月、全国都道府県と政令指定都市に対して接待行政の監視や食糧費支出の公開を求めて名古屋市の弁護士や大阪府、仙台市の弁護士などが呼びかけあって「全国市民オンブズマン」が発足。第1回大会は仙台市、第2回大会は名古屋市、第3回全国大会は今年高知市で開催。34都道府県から37団体が集まって、徹底した実態解明とネットワークの拡大など、今後の活動方針などが協議された。

法の支配によって問題が解決される時代の到来

イメージ(北海道大学法学部教授 木佐 茂男さん)
北海道大学法学部教授 木佐 茂男さん

北海道大学法学部 教授 木佐 茂男さん

北海道大学法学部で行政法、裁判制度などを専攻している木佐茂男教授は「一般的な見解だが」と前置きして、市民の行政に対する活動のあり方を次のように話しています。

多くは善意と正義感で活動をしているのですが、今の行政を住民監査請求や住民訴訟を起こしてコントロールしようとするときには、行政法という分野の知識が必要です。ところが、日本の司法試験で行政法という科目を選択する人は100人のうち8人いるかどうかという状態にまで減っています。それは試験内容がむずかしいのと、これまでは行政訴訟事件など1年間にわずかしかなく、弁護士の仕事として成り立ちにくいからです。

弁護士も含めて市民の側でも法的な対応能力が弱いところで、自分のふところが痛まない行政側とやりあうわけですから、市民側もチェックをする専門的な力をどう組織していくかが大事な問題になってきます。そのことがうまく機能しているのが大阪の市民オンブズマンといえる『市役所見張り番』というグループです。弁護士のほか税理士、公認会計士、司法書士、企業経営者などがそれぞれにプロフェッショナルな能力を発揮して最高裁まで争ういくつもの不正事件を戦いました。『見張り番』という機関紙を定期発行し、『住民訴訟の上手な対処法』という本を作っています。

現在の行政の乱れは、議会の機能不全、公務員自身の市民意識の希薄さ、終身雇用制の弊害、定期異動が生みだす責任逃れなどにその原因があり、日本の組織風土がその背後に影を落としています。また、民主主義の根幹をなす“個の自律”をそれぞれが確立するとともに、地方自治に対する関心の薄さを市民全体が改めねばなりません。

じつは、世界各国の憲法条文を比較すると日本の憲法ほど地方自治の保障に厚い国は存在しませんでした。条文も多く、憲法上ではこれが中央集権国家なのだろうかと思うほど地方自治が保障されています。最近は東欧諸国の新憲法は前文や第1条で人間の尊厳、諸国民との友愛、少数民族への配慮、地球環境の保護などを盛り込み、かつての権威主義的支配を反省して『法の支配』の重要性を強調しています。

日本のこれからの分権化社会は法的な問題が山積する時代ですから、法律によって問題を処理、解決するようにならなければなりません。それと同時に、法に不備があればどんどん改正していくために行動しなければなりません。ギリシア伝説の強盗プロクルステスは、旅人のからだをベッドの長さに合わせて切り落としたり、叩き延ばしたりしたといいますが、法はあくまでも人間性に合わせたものでなければなりません。そのうえで、すべての問題解決は法に則っておこなわれる、そんな時代が世界的に到来していることに、みんなが気づくべきだと思います。そうしたことを踏まえた良識ある市民のネットワークを活かした活動に期待を寄せています。

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