ウェブマガジン カムイミンタラ

1996年11月号/第77号  [ずいそう]    

まちの景観
中井 和子 (なかい かずこ ・ 中井建築研究所 環境デザイン室)

「まちの景観には、そこに暮らす人びとの生活文化度が反映される」と、私はいつも講義の中で話している。緑ゆたかな町には、自然を愛し緑を育む、健康的な生活をおくる人びとが居るし、花が美しく咲き誇る町には、身のまわりの生活環境へ気配りする、心やさしい主婦や高齢者が住んでいよう。落ち着いた色合いの街並景観からは、自分たちの町に誇りを持ち、いつまでも住み続けたいと願う、住民の率直な気持ちが伝わってくる。大きな広告・看板が見あたらない景観の町には、控え目で奥ゆかしい住民の気質が感じとれる。それぞれの街、それぞれの表情で、そこに暮らす人びとの生活文化について無言の語りかけをしている。まちの景観を一瞥しただけで、旅人は、その町への第一印象を心に焼き付けてしまう。

先日、久しぶりに秋の野原を散策した。日本古来のススキやエゾリンドウより、外来種の黄色いオオアワダチソウや薄紫色のユウゼンギクなどが、かなり野原を占領している。身のまわりの自然景観が欧米化しているということであろうか。中秋の名月には、お団子よりパイやケーキの方が似合うようになってきた。考えてみれば、われわれの食文化も、ハンバーガーやピザなどの方が、和食やそばより若者にとって優勢になりつつある。日常生活だって、洋服やベッド・椅子など、すでに和洋混在の暮らしがある。

自然景観の方は種の繁殖力の強い方が勝ち残り、野原の景観も欧米並みの色彩になってきたが、まちの景観の方はまだまださまざまな要素が渾然一体となり、われわれ日本人の生活文化の混乱ぶりが、無秩序な色彩や広告・看板の氾濫した現況の街並景観に反映している。欧米のような落ち着きある美しい街並景観を望むのであれば、まず、われわれの混沌とした現況の生活環境の見直しをはかる必要がある。守っていく伝統文化の育成と、新たな暮らしの息吹を育む質の高い生活文化づくりの姿勢が、地域住民に問われることになろう。外国の街並デザインの模倣ではなく、北海道の地域の風土や歴史・文化を継承した、新たなまちの美しい景観づくりに期待したい。

日本の中でも独特な景観資源を有する北海道が、質の高い観光地となるかどうかは、道民のこれからの生き方にかかってこよう。

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