ウェブマガジン カムイミンタラ

1997年03月号/第79号  [ずいそう]    

テンとナキウサギ
市川 利美 (いちかわ としみ ・ ナキウサギふぁんくらぶ代表)

林から出てきたテンが、目の前のガレ場(岩がごろごろした所)を上がっていく。林の中に消える直前、ナキウサギの撮影にきていたカメラマンの1人が気づき、「テンだ!」と叫ぶ。私は、ただぼう然と言葉を失っていた。

数分後、テンはガレ場に戻り、悠然と歩きまわった後、まるで、らせん階段を上るように枝を伝って、アカエゾマツに登ってみせた。ここが自分のテリトリーであることを、観衆にアピールするかのように。そして、ふたたび林の奥に消えていった。

ふさふさした黄色の毛に覆われ、顔だけが白い。ナキウサギの天敵だが、それでも、かわいい。尾が黒いから、キテンではなくエゾクロテンとあとで聞いて、また興奮がよみがえった。

私は、ナキウサギの保護と天然記念物指定をめざして活動する『ナキウサギふぁんくらぶ』(会員1300人)のスタッフ10数人と、この1年間、ナキウサギの観察・調査を継続してきた。

春まだ雪が深い時期に雪の中から出てきて、小枝やその先についている葉を食べたり、雪の下の岩穴に貯食している姿。繁殖期にオスとメスが鳴きあうようす。前屈みになって、お尻に口をつけて自分の出すフンを食べる姿。のんびりと岩の上でお昼寝してこっくりこっくりしたり、あくびをするさま。そうかと思うと、地べたにいきなりゴロンと横になる。コケモモやスゲ、イソツツジ、エゾムラサキツツジ、とにかくいろいろな草や葉をおいしそうにモグモグ食べる。秋はせっせと貯食。氷河期の生き残りといわれる彼らの暮らしぶりや生態がわかってきた。

ここには、やはり氷河期の遺存種、美しいルリ色のカラフトルリシジミやエゾクロテン、エゾオコジョが棲(す)み、ときにクマゲラ、はるか上空にはオオワシが舞う。なんと雄大な自然。そして、夏でも冷気が吹きでる風穴(ふうけつ)が、一帯をホソバミズゴケ、スギバミズゴケ、ハナゴケといった希少なコケで絨毯を敷きつめたようにしている。

この、時を超え、氷河期と今を1つにつないでくれるナキウサギとその環境を、多くの方に知っていただくために、ビデオ『ナキウサギの世界』を作りました。子どもたちにも見てもらえるように、申し込みがあれば、学校には無償で贈呈させてもらいます。
 〈連絡先 TEL:011-251-5465〉。

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