「つまづいたっていいじゃないか にんげんだもの」― すでに120万部を超えるミリオンセラーとなった相田みつをの第一作『にんげんだもの』のタイトルともなった、優しく温かい人間味あふれる彼の言葉である。
彼の作品と出逢って、ちょうど10年になる。テレビの歌謡番組で曲と曲の間に大阪志郎が『にんげんだもの』の一節を朗読した。人の心をゆさぶるような数々の言葉を聴いたとき、なにか全身を電撃的なシビレが走った。それ以来、彼の作品に魅せられ、いろいろな場面で心のよりどころにしている。
私が胸を打たれ、心に残っている好きな言葉に
◎しあわせは いつも自分のこころがきめる
◎ひとの世の幸不幸は人と人とが逢うことからはじまる よき出逢いを
◎うばい合えば足らぬ わけ合えばあまる うばい合えば憎しみ わけ合えば安らぎ
◎一生燃焼 一生感動 一生不悟
がある。これらの言葉を、素朴で力強い骨格のたくましい独特の書体で表現した作品を数多く残してくれた。
飾り気のない言葉で人びとの悩み、苦しみ、悲しみを心から慰め、励ます彼の作品は、経営者をはじめビジネスマンだけでなく、主婦や若いOLたちの心をひきつけてやまない。
その作品にふれると、何やら胸がドキンとして立ち止まり、ハタと我(わ)れに返る、そんな衝撃を受ける。何の説明もいらない平易な言葉で表現されていて、心の中にストレートに飛び込んでくる。しかも、考えれば考えるほど奥が深く、ごくあたりまえで自然と人間として「こうあるべき」、「そうありたい」という作者のこころがジーンと伝わってくる。
昨年9月、東京・銀座に、その作品を展示する常設の『相田みつを美術館』がオープンしたが、出張で上京の折、立ち寄ってみて驚いた。展示されている作品の前で涙をためた目でじっと見つめている女性を何人も目撃した。
言葉を手帳やパンフレットの裏へ懸命にメモしている姿も多く見られた。備えつけられている大学ノートの感想文やアンケートはすでに3万5千通を超えたという。この中には、自殺を思いとどまった青年、いじめを乗り越えた女子高校生、障害児をもつ悩みを克服した母親、悲惨な被害から立ち直った阪神大震災の被害者の話などが、せつせつと綴られている。
時は5月。新入社員をはじめ、環境が変わった人びとの中から、五月病が発生する季節。
相田みつをの作品には、五月病によく効く特効薬が含まれていると思われるので、症状の現れた方は彼の作品をのぞいてみるのも処方のひとつとしてお奨めします。
ちなみに、相田みつをの作品は健康体の人にも保健薬として有効であることを申し添えます。