ウェブマガジン カムイミンタラ

1997年07月号/第81号  [ずいそう]    

デンマークの先進に学ぶ
吉野 正敏 (よしの まさとし ・ 北海道自由が丘学園をつくる会)

機会を得て「面積は九州・人口は北海道」規模の国を訪問しました。かつて北欧全域の覇者ともなったデンマークは、幾多の戦争で国土を割かれ、それを転機に、国造りと人づくりを重視した国でもあります。

国土造りはダルガス大尉による植樹(1860年代)から、また国民教育はグルンドヴイ牧師による宗教改革・農民覚醒の実践(1820年代)がその先達でした。

その結果、国土の60パーセントの耕作可能地を有し、自国民の3倍の酪農生産と併せて、医療と教育費が無料、障害者の権利保障、85年原発中止決定、そしてオンブズマンなどの実績ある社会を形成しました。温和で人好きで「人が集うと協同組合をつくる」といわれる国民性、シェア30パーセントを占める生協や農協パワーなどにより、協同組合の王国としても知られています。

教育制度では、市民(かつては農民、現在は若者や老人も)が自ら学ぶための「全寮制の市民大学フォルケホイスコーレ」や、体験・実習・自立を重視する「市民立型の小~高校・エフタスコーレ」を、100年以上も実践しています。北欧の直接民主主義の伝統をもとに『住んでいる様々な人間に合わせたシステム』を整えるなかで、弱者の権利を護り、権力集中をチェックする“人権先進国”を可能としたのでしょう。

フォルケホイスコーレは「18歳以上、試験なし、資格も与えず、対話中心の教育を、共同生活の中で共有し、自己確立する」というもので、経費の75パーセントは助成されますが、国家の干渉はありません。グルンドヴイの思想に基づく、当時の知識暗記型の「死の学校」に対峙する『生の学校』です。国内に100校、北欧に400校、この民衆立型学校の存在は公教育に大きな影響を与え、復興して近代国家を歩むデンマークの担い手となる人びとを輩出してきました。この系列の小中高校は全体の2割を占め、入学の意思や高等教育段階での進路判断を父母や本人が選択できること(65パーセントは職業別専門学校へ)、卒業試験が大学入学のライセンスとなること、大学は専門家養成機関であることなどが教育制度の特徴です。

(訪問したエフタスコーレ=全寮制中学の詳細は、私どもの通信『教育フロンティア』に記載)

現在の日本は学歴競争社会を反映して、学校や地域が子どもたちの『一人ひとりの可能性を育み、学ぶことが楽しく、仲間と共に成長する場』になっていません。「学校はお上がつくるもの」であり、その内容も規定され、とくに「受験学力」のみが突出しています。現実社会との係わりが稀薄な一方で、社会のツケも負わされています。大変なのは子どもたちだけではなく、大人を含む社会全体が転換を求められています。ヨーロッパの中で自らの特色を定め、国の基盤である人(づくり)と地域における民主主義の蓄積に力を注ぐ。そして、そのためのコストも分かち合う。そんなデンマークのいき方を、私たちも学びたいものです。

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