ウェブマガジン カムイミンタラ

1997年09月号/第82号  [ずいそう]    

過去の責任、未来への責任
川田 悦子 (かわだ えつこ ・ 血友病の子どもを守る親の会代表)

1カ月に20回近い講演があることもあって、電車や飛行機に乗っている時間が増えてきている。だから、移動の時間を有効に使えるかどうかが重要なのだが、このごろは疲労がたまって、ただ眠るとかボーッとしてしまうことが多い。そして帰宅すると、FAXや手紙の束が待ち受けている。龍平とゆっくり食事をする時間もなく、ワープロに向かわなければならない。来年の2月ごろまでは、この忙しさは変わらない。

講演を終わっての感想に「薬害エイズは解決していないということが分かりました」「私も前向きに生きていきます」というのが多い。だから、各地に行って直接話をすることがとても大事だと感じている。でも、この今の生活は変えなければならないとも思っている。

なぜ薬害エイズが起きたのかといえば、経済優先の思想と癒着(ゆちゃく)の構造である。儲けのためには犠牲も仕方がないという考えが、政・官・財に蔓延(まんえん)し、危険だと気づいても、血液製剤を売りつづけてきた。

裁判で国と製薬会社の責任は指摘され、厚生大臣も製薬会社の社長たちも私たちの前で謝った。でも、心からの謝罪はおこなわれなかったと思っている。

人が心から悪かったと感じた時は、なぜそうなったのかを明らかにし、これからの対策を立てるはずだ。しかし、和解が成立して1年半になろうとしているのに、被告は自ら真相は明らかにしようとしてこなかったし、癒着の構造を断ち切ろうともしていない。このままでは薬害エイズの真相は明らかにされないまま蓋(ふた)がかぶされてしまい、薬害はこれから何度でも起きるだろう。

52回目の8月15日を迎えて、戦争の責任をとるべき人がとらないままできたことが、無責任体制をつくりだしてきた源であると思えてきた。そして、それが今回の薬害エイズを生みだしてきたのだとも。

現在、すでに500人近い血友病患者が亡くなった。龍平の体調も年々悪くなってきている。

今、各地で語っていくことと併せて、真相を明らかにしていかなければならないことを痛感している。そのことが薬害をこれ以上出さないことにつながっていくからだ。それが今、この社会に生きる私たちの責任でもあるし、被害者龍平の母親としての責任でもあるとも。

忙しさは変わらないかもしれないが、飛行機の中でのボーッとしている時間は減るかもしれない。

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