野生の草花の冬の姿に、強く惹(ひ)かれるものがあります。春や夏の瑞々(みずみず)しく柔らかな可憐さは消え、健気(けなげ)で清い、孤独な美しさを備えたその容貌が、いつでも私の心をとらえるのです。
なかでも野生のユリの仲間に惹かれます。雪原や森の空き地の川岸に、凍りつく風の中でつんと立っている冬のユリを見つけると、私は足を止めて、思わず見入ったりするのです。枯れて空洞になったユリの堅い茶色の茎が、種の飛んだあとの小さな器を、重く曇った空に向けて差しだして立っています…。まるで、もうじきまた降ってくる雪を受けとめようと、息を止めて待っているかのようです。
ある雪の午後、私の乗った汽車が、黄色い葉がざわざわ鳴るカシワの林を過ぎて、雪原に出ました。遠く野山を背景に、雪の原、ススキの川原、木造の廃屋の風景が、たくさんの雪ひらのむこうで、私の目の前に広がりました。そして、ちょうどその瞬間、重い雪雲の下から西日がその風景の中に射し込んできたので、雪の原も廃屋も黄金(こがね)に変わり、雪ひらが金の花びらのように輝きながら空から舞いおりてきたのです。
線路からそう遠くなく、雪原の川岸に立った一本の枯れたユリが目に入りました。光を見上げて、空に舞う金の花びらを受けとめようと小さな器を広げて立っているその姿に、なんとも切ないものが感じられ、そのユリの思いがひしひしと私に伝わってきました。金の花びらの美しさと、それに重なって、遠い夏のころ、自分が咲かせた柔らかな花びらの思い出…。
枯れたユリも、川原も、廃屋も、あっというまに過ぎて、見えなくなりましたが、私の心には、ユリの思いを記したひとつの小さな歌が残りました。