北海道に生育する木々は、針葉樹を除くと、広葉樹の高木類のすべてが落葉樹なので、成長期と休眠期の季節変化がはっきりしている。そして、冬芽の研究をしてきたからかもしれないが、私には、落葉した裸木の樹形がすばらしく魅力的である。また、雪景色の常緑針葉樹もすばらしい。
そんな木々のなかで、私が好きな樹種は、大樹になるもの、長寿のものである。世にいう巨樹、老樹の類である。それらには超高木になる樹種と、直径が巨大になる樹種とがある。また、長生きで、たぶん200年以上生きている樹種が含まれる。
針葉樹ではエゾトウヒ(エゾマツ)、アカエゾトウヒ(アカエゾマツ)、イチイ(オンコ)が、広葉樹ではミズナラ、シナノキ、ヤチダモ、ハルニレ、カツラ、ドロノキ、ほかが巨木になる。それらは太い幹、大きい枝張りをもち、堂々として、森の主であり、絵になり、写真になる。
45メートルも伸びたアカエゾトウヒが、200センチも太ったミズナラが、800年も生きたイチイが、これまで次々と伐採されてきた。直径3尺上を伐った時代、2尺上の時代が過去のものとなり、1尺上であれば伐り急ぐ時代になった。山地の天然林には巨樹が失われ、鎮守の森、河畔林、屋敷林などにしか見られなくなった。
これではあまりにも淋しいし、情けない。生育条件を改良して、巨樹を保存してゆくとともに、その子孫を養成して、後継樹をつくる必要がある。巨樹になる条件は生育環境だけでなく、遺伝子も関わっているので、巨樹の子孫づくりがたいへん重要なのである。本州方面では、鎮守の森などに多数の巨樹がある。北海道でも、鎮守の森に、公園に、並木に、河畔に、巨樹を育成してゆくことが大切であり、これらが次世代への立派な遺産になるはずである。
ただし、森林には高木類、小高木類、低木類も数多く混交している。これらが加わって複雑な生態系が出来上がっているのであるから、主役の巨樹と、その他の脇役の双方に目を向ける必要がある。このことは、人間社会にも当てはまりそうである。