ドイツ南部にあるフライブルクの町は、環境都市として名高い。そこに長く住んで、日本にフライブルク便りを送り続けてきた今泉みね子さんから、「ドイツを変えた10人の環境パイオニア」(白水社)という本をいただいたのは2年前のことである。そこには、ごくふつうの市民や、先生や、役人が、ちょっとした工夫と環境へのこだわりによって、まわりの社会をあざやかに変えていった10の物語がおさめられていた。
いちばん感動したのは、ごみ箱が1つしかない小学校をつくったシェーファー先生の話である。でも、200人も生徒がいる小学校で、そんなことって可能だろうか。
なにごとも現場まで行って自分の目で見ないと信じない、というのが僕のへそ曲がりなところである。それで、わざわざそのためにフライブルクまで僕はでかけていった。
小学校のあるメルデインゲンという村は、フライブルクの郊外にあった。どの教室にも、ガラス製の水槽がおかれている。水槽には森の土がつまっていた。土の上には森の木から落ちた枯れ葉がのっている。それがカーロの家だった。シェーファー先生は、子どもたちがミミズを身近な友だちと思えるように、ミミズにカーロという名前をつけたのである。
「こんなものを捨てたらカーロくんがおなかをこわしちゃうよね」。
「だからプラスチックや塩ビをゴミに出しちゃいけないんだ」。
子どもたちはそうやって、カーロくんを通じて、ゴミを出さない生きかたを身につけていくのである。1年生は字を書く練習に紙を使わない。浅い箱に入れた砂が、なんどでも消せて、ゴミを出さないノートなのだ。
北海道からこんな小学校が生まれて、それが日本中に広まったらすてきだな、と思う。
※今泉みね子:「ミミズのカーロ:シェーファー先生の自然学校」(合同出版)参照