ウェブマガジン カムイミンタラ

1999年11月号/第95号  [ずいそう]    

歩く
三宅 知子 (みやけ ともこ ・ 童謡詩人)

私の家の近くには牧場があります。ユートピア牧場といいます。気に入った名前です。そこから細い道が室蘭岳へと続きます。その道を歩くのが好きです。私の目は、まっさおな空を見つめ、耳は流れる水の音を、小鳥のさえずりを聞きます。鼻は草木や、どこかに隠れている生き物の匂いを嗅ごうとします。自然は四季折々に変化しますから、あきることはありません。その中を歩くだけで、人は充分に満足できることを知りました。

冬のこと、牧場に差し掛かった時に、重い地響きを耳にしました。初めての音です。近付いてみると、スノーモービルを先頭にして、十数頭の馬が、雪煙りをたてながら、冬の世界を走っていました。次のような詩がうまれました。

うまのはしるおと
ちきゅうをやぶるおとだよ
じめんをたたき ぼくのあたまをけり
からだのなかを とおりぬけていく
もっと もっと はしって
うま きれいだよ
かぜのなかを およいでいる

春になると、牧場はにぎやかになります。子馬が産まれます。

数日前のことです。片側の道の少し奥の方から、草を揺らす音が聞こえてきました。息をころして、しばらく立ち止まっていると、現れたのはリスでした。人目のない所で遊んでいて、勢い余って飛び出してきて、ばつが悪そうでした(私にはそのように思えました)。以前にも同じ場所で、このような体験をしました。その時のあわてもののリスとの再会だったのでしょうか…。

近頃、転げるように秋が近付いているのがわかります。枯れ葉が目立ちます。視線を上に向けると、真っ白な尾花が、青い空を突き刺しています。無数の穂が、光に当てられて、生き生きと動いています。それから私は紫色の野菊を摘んで家へ帰ります。「ありがとう」でしょうか、それとも「おじゃましました」でしょうか…そのような言葉が、自然に出てくるからふしぎです。

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