先日、放送作家の依頼を受けて取材に応じた。STVラジオ日高晤郎ショーの番組で私を紹介したいという。何のことか解らないままにインタビューに応えた。
2日後、今まで聞いたことがなかったこの番組に耳を傾けた。私の生きざまは語るに値しないので、亡父の製本職人としての厳しさ、本づくりに打ち込むひたむきなこだわりを話したことが紹介された。終了後、多くの友人知人から「ラジオを聞いて感動した」などなど電話を頂いた。こんなに多くの人がラジオを聞いているとは驚きでもあった。
私も親父に本づくりの厳しさを仕込まれた1人だが、親父のような採算をまったく度外視した職人根性は身につかなかった。でも、本を読む人の立場になって心をこめてつくる精神だけは根付いたようだ。書籍が全自動化された製本ラインで生産される昨今でも、最初のつか見本1冊は手づくりであり、本づくりすべての基本であることは今も変わらない。
私は朝日カルチャーセンターの「手づくり製本」講座の講師を務めて19年になる。途中、病気で半年中断したこともあって、もう辞退しようかと悩んだことがあったが、多くの受講生の熱意に励まされて再開した。今、私にとっても老後の生きがい、生涯学習の場として、続けてよかったと感謝している。
講座の内容は、単行本のような書籍から、和本、絵本、フランス装本、背が丸くなった上製本まですべて手づくりで仕上げる。講座は6カ月1クールだが、受講生の中には、数年通い続けて自作のエッセー、アルバム、皮革装の豪華本などをつくる人、歳月をかけて毛筆で書き上げた源氏物語を紬布張りの和本に仕立て、これを数冊ずつ保存するための非常に手の込んだ帙(ちつ)までもつくった人、80歳の高齢にも拘らず亡き妻の一周忌に彼女が着ていた着物地を装幀に遺句集を1冊ずつ丹念に仕上げた人など、完成された時の感動と喜びを分ち合えることは私にとっても何よりの幸せである。
近年、句歌集、自分史などの自費出版が静かなブームを呼んでいる。自分が歩んできた生きざまを子や孫たちに書き残したいと、教室に通ってくるお年寄もいる。同世代に差しかかった私に、多少でも手助けができればと思うこの頃である。