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2000年07月号/第99号  [ずいそう]    

「子ども読書年」に思うこと
工藤 左千夫 (くどう さちお ・ 絵本・児童文学研究センター所長)

今年は「子ども読書年」である。おそらくそれは、青少年の読書離れの傾向に歯止めをかけ、そのことによって青少年の心の健全化を促そうとの想いが「子ども読書年」制定につながったのだろう。

確かに最近の青少年犯罪の凶悪化、教育現場の諸問題を鑑みると、「何かをしなければ」との想いはそれなりに理解できる。

しかし、子どもと読書についての一般的な考え方は時代とともに目まぐるしく変わっていく。ふた昔前は、「本を読むよりは数学の問題を解いたり、英単語のひとつでも覚えたり…」。ひと昔前は「本を読めば理解力が身につき、勉強に役立つ」などの風潮があった。

今回のそれは、いままでとは異なる。いや、異なるものにしなければならない。

読書の効用については多くの意見があるだろう。ただ、文字文化とは「線上性」の文化である。「線上性」とは、会話の同時並行的なものとは異なり、1本の線(文章)の上でしか展開できない特質がある。この特質のために、文字文化の表現は論理性を含む。ここでの論理性とは「物事を考える」ことと同義である。この考える行為は自己愛的な偏狭の世界ではなく、自分と他者とを含めた全体の世界を考えることを意味する。良質な絵本や児童文学には、いままで述べたような意味での世界観が満載されている。

ひとりの人間が自分に対して、また世界に対して生きていくことの意味は重要である。そのような事柄を考えることは重要である。そのような事柄を感じることは重要である。この「考える」ことと「感じる」ことのふたつがあいまった状態、それを心の解放感というのである。

せっかくの「子ども読書年」である。自分の人生を切り開いていくための契機になればそれでよい。そのための「子ども読書年」元年になればと願っている。

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