この一期生の人たちに、一九九一年五月、別れてから四三年ぶりに、もう一度「社会科の授業」をしてほしいと乞われて始まったのが、この一二回の講義です。
その内容は、九〇年代以降の日本の進路として探る道を、ほぼ毎年おこなわれた講義の時節に起きた出来事に即して話していますが、「これからの日本の座標軸」を考えることに尽きていると、振り返って思っています。
まえがき ―P1―
中産階級国家という形は一応実現しています。問題はこの階層の厚さが強みを発揮していないことです。市民階級として自立する、いわゆる市民社会になっていないのです。
この階層が社会を支え、自分たちは自立出来る、自分たちよりも国家は弱者を救え、貧者を救え、老齢者の不安を解決しろ、病人の看護を手厚くしろと言うようになれば、日本は最大の福祉国家になれるのです。ですからこれからの日本は中産階級国家を目指すのではなくて、中産階級を市民階級として自立させ、その人たちの声援のもとに福祉国家を実現することを目指すべきでしょう。
11 民主主義とアメリカ、そして"構造改革"を問う(02年1月26日の講義)
―P197―
いずれにしても、こうした教育のもとで築き上げられた信頼関係が、この本を生みだすことになりました。時代を共有しあっていたこと、前向きの情熱を持ち合えたこと、そしてなによりも一〇歳違いの「師弟」関係であったことが、話の「伝え手」と「聞き手」の信頼関係を強固にして、一四から一五歳であった子どもたちが、四三年ぶりの歳月のなかで成長し、経済の第一線、政治の第一線で活躍するリーダーとなっていても、心おきなく、またよどみなく私の本音を引きだしてくれたのだと感じています。
あとがき ―P332〜333― |