雨の翌日である。友だちの初七日のお参りにいこうとして、地下鉄の出口を間違えた。違えていることにも少しも気づかずに歩いていると、石垣の前にひとりの少女が佇っていた。少女は石と石との間の僅かな土から咲いた青いエゾエンゴサクの花蜜を吸っていた。なつかしい風景に出過い、その少女をみるともなく見ていると、少女もはずかしそうにわたしを見あげた。忘れかけていた自分の幼いころの姿をその少女の姿のなかに再びみたように思った。
あれはアンズの花が白い雲のように咲いていた日のことで、その木の下でナズナの花を摘んでいると、隣リのおばさんに「明日雨が降るよ」といわれた。ペンペン、ペンペン三味線のバチのように、耳元でならすと、それは楽しい遊びてあった。ナズナの花は子どものころペンペン草という別名と、雨降り花という名をもっていた。ペンペン草は雨に濡れていつも洗われたように咲いていた。
「花いちもんめ」。雨降り花をいちもんめ摘んで、エプロンのポケットに入れる。遊び相手のないわたしは、「あの子を取ろう」といってくれる人はいない。
雨降り花は地方によってさまざまの花をさすらしい。エゾエンゴサク、イチゲ、エンレイソウ、ホタルブクロ、ヒルガオ、それらの花々は梅雨のころ咲く花で、色も淡く青白い花が多い。明日は田植、あすは遠足、そんな楽しみのためにやさしい花は摘まずにおこう。