ウェブマガジン カムイミンタラ

1988年07月号/第27号  [ずいそう]    

釣りに学ぶ ―川で会った子どもたち―
山谷 正 (やまや ただし ・ フィッシングライター)

釣りは、魚を通して自然と友だちになり、そのすばらしさを教えてくれます。少年時代から釣り好きな私も、これからずいぶんいろいろなことを学びました。そして最近は魚を釣るということより、見畑らぬ土地でいろいろな人たちに会うのがより楽しみです。

数年前、道南にある大成町の溪流に釣行した時のこと、川で竿を振っていると、地元の小さな子どもたちがやって来ました。5人はいたでしょうか、彼らは私にしきりと問いかけるのです。私がそれに受け答えをすると、気の許せる人間と思ったのか、「僕にも釣らせてよ」「私にも…」、見るとなかには女の子も2人、たちまち私の周りに子どもたちの輪が出来ました。私は困りながら「そんなに騒いたら魚が逃げてしまうよ。静かにしてね。そのかわりおじさんの釣ったヤマメをみんなに見せてあげるからね」、彼らをなだめたのです。

子どもたちはこれに納得したのか、ヤマメにさわりながら「この魚大きいね。光っているね」と、さも自分たちが釣ったように満足顔でした。

ところがこの子どもたち、私が次の釣り場へ行こうとすると、一緒に来るというのです。いくら家の人が心配するといっても聞かず、とうとう私の前に立って歩き出したのでした。もう彼らは私の案内人です。「おじさん、この前、ここで○○さん、釣ったよ」、さっさと川縁の斜面を降りていきます。そのすばやい身のこなし、さすがに田舎の子どもたちです。

結局、この子どもたちと別れたのは1時間程あとでしたが、私は彼らから人を信じることの美しさと、人恋しいまでの素朴さを教えられたような気がします。今、都会の子どもたちは、周囲の索漠とした環境の中に育ち、人間不信という可哀相な状態にあります。日ごろ、私はこんな子どもたちをみるにつけ、川で出会った純真な子どもたちのことをふっと思い出します。釣りは、私にまたひとつ大事なことを教えてくれたのでした。

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