ウェブマガジン カムイミンタラ

1990年01月号/第36号  [ずいそう]    

恵まれた環境の中で
市川 映子 (いちかわ えいこ ・ ヴァイオリニスト)

「ママ、いってらっしゃい」

子どもたちが、小さな手を一生懸命振って私を見送ってくれる。5歳の息子と2歳の娘は、私の仕事をなんとなく理解してくれているようだ。

私が初めてヴァイオリンを手にしてから、もう30年近くたつ。生まれ育った名古屋、高校・大学時代を過した東京を離れ、結婚と同時に札響入団、翌年コンサートマスターに就任、5年後退団、2年後(一昨年)アンサンブル・ヴェガ結成。札幌に来てから仕事の内容はいろいろ変わったが、いつも感じるのは、北海道には音楽に関心を持った人が多いということである。

コンサートマスターに就任したとき、私が思っていた以上に大きな話題を呼び、ほとんどの新聞杜の取材や、テレビ、ラジオに“話題の人”として出演もした。私が札響初の女性コンサートマスターで、まだ24歳だったからではあるが。

そのほとぼりも完全に冷めたころ、まったくと言っていいほど同じことがあった。アンサンブルヴェガ結成のときである。このときはメンバー4人が女性で、そのうち3人が母親であるということが話題になった。そして両方とも「実力は一流」と報道されていたので、それぞれの初ステージまでの1ヶ月間は、そのプレッシャーと戦う毎日であった。報道の力のおかげ(?)で、いま、ヴェガで地方公演に行っても「子どもさんがいて大変でしょうけど、がんばってくださいね」と地元の方から声をかけられる。皆、こちらが何も言わなくてもよく知っているし、わかってくれている。北海道に、縁もゆかりもない私に、コンマス時代も今もいろいろな力が励まし、応援してくれる。そのあたたかさが、行く先々で感じられる。ほんとうにうれしいことである。

同業者として、いちばん理解してくれる主人、小さいなりに私の仕事に協力してくれるかわいい子どもたち、こんな恵まれた環境の中で私は弾ける限りヴァイオリンを続けていきたいと思っている。

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