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1992年11月号/第53号  [ずいそう]    

民衆が敵
山田 昭男 (やまだあきお ・ 未来工業株式会社代表取締役)

私どもの会社の若い女子社員が言いました。「岐阜県では、選挙でお金がもらえないのね」。驚いて問いただしました。「お前さんの郷里(くに)では、もらえるのかい」「私たち、いつももらっていたわよ」

彼女の故郷は東北地方です。いろいろ話を聞いてみると、選挙の度毎に必ず“金”が配布されてきたとのこと。しかも彼女は結婚して、亭主の関係で岐阜県へ来たのであって、郷里ではいまだほんの小娘だったわけで、そのような独り身の小娘にまでも金が配られていた事実に唖然としたのです。

ところが、ここに新事実が現れてきました。岐阜県でも、金がバラ蒔かれていたのです。選挙事務所で土産に出したお握りの中に500円が入れであった事件かと思ったら、さにあらず。なんと郵便受け箱に金が投げ入れてあった事件なのです。夜陰に紛れての仕業と思われますが、金の話は千葉県なども、つとに評価が高いので、日本全国津々浦々、選挙に金はついて回るので、それには北海道も例外でないのかもしれませんが、どっちにしろ、政治に金が…というより、選挙に金が…は困った国民性だと情けなくなります。

100年前にイプセンという劇作家が『民衆の敵』という芝居を書きました。30年ぶりに劇団民芸が米倉斉加年(まさかね)の演出で、昨年上演いたしました。ストーリーは小さな温泉町で、その温泉に菌があって、入浴すると危険だからという医者を、兄の町長が町民を煽動して町から追放するという芝居なのです。町を滅ぼそうとする憎っくき敵に仕立てるのです。実はそのために、つまり病原菌で観光客が減少して、町自体が滅亡に瀕するのを隠蔽しようとする町長に荷担する町民の無知を、イプセンはあざ笑っているのだと私は理解しているのですが、そのために本当の外題は『民衆が敵』でなくてはならないのです。

その民衆の無知、金をくれた方に1票入れようというその無知が、今の自民党政治を育む土壌になっていると嘆く昨今であります。

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